職業選択とリスク

もう1つのエピソードがあります。
それはある大学生の話です。
大学生から就職事情について聞く機会があったのですが、大学生の人気就職先の話になると、大手生損保や銀行が、圧倒的に人気があるというのです。
この傾向はこの数十年、ほとんど変わっていないのです。
日本の経済社会の停滞ぶりを見せつけられたような感慨すら覚えます。
とはいえ、数十年前であれば、金融業界にもそれなりに成長期待が寄せられていましたが、今はどうでしょうか。
大手金融機関に対する人気は、ほとんど全て、職の安定に対する期待からくるものではないでしょうか。
就職氷河期が長く続きすぎ、安定した職に就くのが難しい時代が長かったことは確かです。
しかし、前途洋々たる若者たちが、そろいもそろって安定第一で人生の選択を行うとすれば、それはとても健全なこととは思えません。
なぜこうした事態になっているのだろうと考えてみると、そこには家庭教育が大きく影響しているのではないでしょうか。
日本では、雇用の安定した時代が長く続いてきました。
多くの大企業で終身雇用制が維持され、そうした企業に就職することで、職の安定を手に入れることができました。
実際、「安定」は目指すものだったのです。
そんな時代をずっと見てきた親たちが、子どもたちの就職にあたって「安定を重視しろ」と勧めるのも、無理はありません。
安定した職に就くことが第一だと、事あるごとに聞かされて育った子どもたちが、安定を最優先する態度を身に付けているのは当然かもしれません。
しかし、それでよいのでしょうか。
安定志向ということは、リスクをとらないということです。
これから社会に出ていく人々の多くがひたすらリスクを避けようと考えるのであれば、それは経済にとっては停滞を意味するのです。
それでも個々人が安定しているのだから良いかというと、実はそうでもないと思うのです。
子どもたちは、この先何十年も働いていきます。
今、安定しているように思えるものが、何十年先も同じように安定していると、どうして分かるのでしょうか。
このようにいうと、「でも公務員なら大丈夫でしょうjという話が必ず出ます。
しかし、公務員でも解雇される国は、世界にいくらでもあります。
将来もしものことがあって、新しい職を探すようなことにでもなったら、と想像してみましょう。
安定することだけを目標にして働いてきた人材が、雇う側から見て魅力的に見えるでしょうか。
「先が見えない状況にあっても対処してきた」というほうが、有能な人材に見えるはずです。
安定というのは、結果的にそうなっていれば望ましいのでしょうが、初めから安定を目指すことは、案外危険なことでもあるのです。
いってみれば、人生のリスク管理ということかもしれません。
最初から完璧な安定を想定して行動すれば、予定していなかった事態が起きた場合に対処できないということにもなります。
昔から「手に職」という言い方もありますが、さまざまな事態に対応できる力を身に付けるということが、真の安定を意味するのではないでしょうか。
子どもが職業を選択するにあたって、親が何らかのアドバイスを与えられるとすれば、それはさまざまな職業の将来性や未来の経済について、子どもとともに考えたり、話し合ったりすること、また、子どもが十分に考えを深められるように、情報を示すことではないでしょうか。
そのように考えると、教育を与える側の親たちに必要なのは、金融の表面的な知識ではなく、経済に対する幅広い関心と基本的な知識であることに気付きます。
そして、その経済にお金がどう関わっているのかを教えることが、お金の教育の本質的な部分なのです。

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